
はじめまして。「じぶん防犯」代表の守(まもる)です。私はこれまで10年以上にわたり、セキュリティ関連企業で数多くのご家庭や企業の防犯対策に携わってきました。
新しいスマートフォンやワイヤレスイヤホンを購入したとき、箱や説明書に「IP68」や「IPX4」といった謎の記号が書かれているのを見たことはありませんか?



「なんとなく水に強そう」
というイメージはあっても、その数字や文字が具体的に何を意味するのか、正確にご存じの方は少ないかもしれません 。
実はこの記号、安易な思い込みで製品を選んでしまうと、水濡れや故障といった高価な代償を払うことになりかねない、非常に重要な情報なのです。
私はこれまで10年以上にわたり、セキュリティ関連企業で家庭用・業務用の防犯対策に従事してきました。
特に防犯カメラのような屋外に設置する精密機器を選ぶ際、この「IP等級」は機器の寿命と信頼性を大きく左右する、生命線とも言える指標です。
そこでこの記事では、IP等級の基本的な意味から、専門家でないと分かりにくい細かな違い、そして皆さんの生活シーンに合わせた最適な製品選びのポイントまで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたもIP等級を正しく理解し、自信を持って製品を選べる「準専門家」になれるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。
IP等級の基本|「IP」ってそもそも何?
まず、最も基本的な部分から見ていきましょう。「IP等級」という言葉は、私たちの身の回りの多くの電子機器で使われています。
IP等級の定義と目的
「IP」とは、「Ingress Protection(イングレス・プロテクション)」の略です 。日本語に訳すと「侵入に対する保護」という意味になります。
これは、電気製品のケース(外郭)が、内部の精密な部品を「固形物(ホコリや砂など)」と「液体(主に水)」の侵入から、どれだけ保護できるかを示す世界共通の「ものさし」です 。
この規格は、IEC(国際電気標準会議)によって定められた国際規格「IEC 60529」に基づいています 。そして、日本ではこの国際規格に準拠した形で、JIS C 0920(日本産業規格)として規格化されています 。
この規格の最大の目的は、「防水」や「防塵」といった曖昧な言葉を、客観的で試験可能な統一基準に置き換えることです 。
これにより、メーカーが異なっても、消費者は製品の保護性能を公平に比較できるようになったのです。
IPコードの読み方:「IP〇〇」の数字の意味
IP等級は、通常「IP」の後に続く2桁の数字で表されます 。この2つの数字が、それぞれ異なる種類の保護性能を示しています。
- 1桁目の数字(第一特性数字): ホコリやゴミなどの「固形物」の侵入に対する保護等級です。【防塵性能】
- 2桁目の数字(第二特性数字): 水の侵入に対する保護等級です。【防水性能】
「X」が示す本当の意味
では、「IPX4」や「IP6X」のように、数字の代わりに「X」が使われている場合はどうでしょうか。
ここで注意が必要なのは、「X」は保護性能が「ゼロ」という意味ではない、ということです 。
「X」が意味するのは、「その項目に関する試験を実施していない」または「保護等級をあえて規定していない」ということです 。
例えば、IPX7と表示された製品は、防水性能については7等級の保護レベルを持つことが試験で証明されていますが、防塵性能についてはテストされていない、ということを示します。
防塵性能が全くないわけではなく、単にその性能を保証していない、と理解するのが正確です。
1桁目の数字が持つ「もう一つ」の重要な役割
実は、1桁目の防塵性能を示す数字には、あまり知られていない、しかし非常に重要な役割がもう一つあります。
それは、機器をホコリから守るだけでなく、感電などの危険から「使用者を守る」という安全性の側面です。
JIS規格では、この1桁目の数字を「危険な箇所への接近に対する人体の保護」と定義しています 。
- IP1X: 手のひらのような大きなものが、内部の危険な箇所に触れないように保護。
- IP2X: 指が内部の危険な箇所に触れないように保護。
- IP3X: ドライバーのような工具の先端が触れないように保護。
- IP4X: ワイヤーのような細いものが触れないように保護。
このように、等級が上がるにつれて、より小さなものが内部に侵入するのを防ぎます。
これは、機器の故障を防ぐと同時に、使用者が誤って内部の充電部などに触れて感電する事故を防ぐための、重要な安全基準でもあるのです 。
IP等級の数字の意味を徹底解説!【早見表付き】
それでは、それぞれの数字が具体的にどの程度の性能を示すのか、詳しく見ていきましょう。ここを理解すれば、製品選びの精度が格段に上がります。
1桁目の数字:防塵性能(固形物への強さ)
1桁目の数字は「第一特性数字」とも呼ばれ、人体や固形物に対する保護レベルを0から6までの7段階で示します 。数字が大きいほど、保護性能が高くなります。
- 等級0: 無保護。特に保護されていません。
- 等級1: 直径50mm以上の固形物の侵入を防ぎます。握りこぶしなどが誤って内部に入らないレベルです 。
- 等級2: 直径12.5mm以上の固形物の侵入を防ぎます。指などが内部の危険な箇所に触れないレベルです 。
- 等級3: 直径2.5mm以上の固形物の侵入を防ぎます。工具の先端や太めのワイヤーなどが侵入しないレベルです 。
- 等級4: 直径1.0mm以上の固形物の侵入を防ぎます。細いワイヤーや虫などの侵入を防ぐレベルです 。
- 等級5(防じん形): 「粉塵の侵入を完全に防ぐことはできないが、機器の正常な動作および安全性を阻害する量の粉塵の侵入があってはならない」と定義されています 。つまり、多少のホコリは入るかもしれないが、動作に影響はないレベルです。
- 等級6(耐じん形): 「粉塵が中に入らない」と定義されています 。これは最も高い防塵性能で、粉塵の侵入を完全に防ぐ構造であることを意味します。
これらの内容をまとめたのが、以下の早見表です。
防塵性能等級(第1特性数字)一覧
等級 | 保護の程度 | 具体例・定義 |
---|---|---|
0 | 無保護 | 特になし |
1 | 手の接近からの保護 | 直径50mm以上の固形物(握りこぶしなど)が内部に侵入しない |
2 | 指の接近からの保護 | 直径12.5mm以上の固形物(指など)が内部に侵入しない |
3 | 工具の先端からの保護 | 直径2.5mm以上の固形物(工具、ワイヤーなど)が内部に侵入しない |
4 | ワイヤーなどからの保護 | 直径1.0mm以上の固形物(ワイヤー、ネジなど)が内部に侵入しない |
5 | 防じん形 | 機器の正常な動作を阻害するほどの量の粉塵が内部に侵入しない |
6 | 耐じん形 | 粉塵が内部に一切侵入しない、完全な防塵構造 |
2桁目の数字:防水性能(水への強さ)
2桁目の数字は「第二特性数字」と呼ばれ、水の侵入に対する保護レベルを0から8までの9段階(および特殊な9K)で示します 。こちらも数字が大きいほど、基本的に性能は高くなります。
- 等級0: 無保護。水に対する保護はありません。
- 等級1(防滴I形): 鉛直(真上)から落ちてくる水滴から保護します 。
- 等級2(防滴II形): 機器を15度まで傾けても、真上から落ちてくる水滴から保護します 。
- 等級3(防雨形): 鉛直から60度までの角度で噴霧された水(霧雨や小雨など)から保護します 。
- 等級4(防まつ形): あらゆる方向からの水の飛沫(しぶき)から保護します 。生活防水と呼ばれるレベルで、キッチンでの水はねや、小雨程度なら耐えられます。
- 等級5(防噴流形): あらゆる方向からのノズルによる噴流水(ホースの水など)から保護します 。
- 等級6(耐水形): あらゆる方向からの強力な噴流水(台風時の豪雨や消防ホースなど)から保護します 。
- 等級7(防浸形): 「規定の圧力、時間で外郭を一時的に水中に沈めたとき、有害な影響を生じる量の水の浸入があってはならない」と定義されています 。一般的には「水深1mの場所に30分間沈めても浸水しない」レベルを指します 。
- 等級8(水中形): 等級7よりも厳しい条件下での継続的な水没から保護します 。重要なのは、水深や時間はメーカーと使用者の間の取り決めによるという点です 。つまり、IPX8は製品ごとに性能が異なります。
これらの防水性能をまとめたのが、以下の早見表です。
防水性能等級(第2特性数字)一覧
等級 | 保護の程度(JIS呼称) | 試験の概要・目安 |
---|---|---|
0 | 無保護 | 特になし |
1 | 防滴I形 | 垂直に落ちる水滴(結露など)に耐える |
2 | 防滴II形 | 15度傾けても垂直に落ちる水滴に耐える |
3 | 防雨形 | 60度までの角度からの噴霧水(小雨など)に耐える |
4 | 防まつ形 | あらゆる方向からの水の飛沫(しぶき)に耐える |
5 | 防噴流形 | あらゆる方向からのホースなどによる直接噴流水に耐える |
6 | 耐水形 | あらゆる方向からの強力な噴流水(台風の雨など)に耐える |
7 | 防浸形 | 一時的に水中に沈めても(水深1mで30分間)浸水しない |
8 | 水中形 | 継続的に水中に沈めても浸水しない(条件はメーカー規定) |
【シーン別】私たちの身の回りにあるIP等級
規格の数字が分かったところで、次は私たちの生活に身近な製品を例に、どのIP等級が適しているのかを具体的に見ていきましょう。
スマートフォンでよく見る「IP67」と「IP68」の違い
最新のスマートフォンで最もよく目にするのが「IP67」と「IP68」です 。どちらも防塵性能は最高の「6」で、粉塵の侵入を完全に防ぎます。違いは防水性能の「7」と「8」にあります。
- IP67: 防水性能の定義が明確です。「水深1mに30分間」沈めても、内部に水が侵入しないことが保証されています 。これは国際規格で定められた統一の試験条件です。
- IP68: IP67よりも「より厳しい条件」での水没に耐えることを示します。しかし、その「厳しい条件」が具体的にどのようなものか(例えば「水深何mに何分間」)は、メーカーが独自に設定します 。
この違いは非常に重要です。例えば、A社のIP68スマホは「水深1.5mで30分」、B社のIP68スマホは「水深4mで30分」というように、同じIP68でも性能に差があるのです。



IP68の製品を選ぶ際は、「IP68だから安心」と考えるのではなく、必ずメーカーの公式サイトや製品の仕様書で具体的な防水条件を確認する習慣をつけましょう。
これにより、想定外の水没事故を防ぐことができます 。
屋外用防犯カメラに最適なIP等級は?【プロの視点】
防犯のプロとして、私がお客様に屋外用防犯カメラをおすすめする際に、最も重視する点の一つがこのIP等級です。
屋外という環境は、私たちが思う以上に過酷です。春には花粉や黄砂、夏はゲリラ豪雨や台風、秋は落ち葉、冬は雪や凍結と、一年中、粉塵や水分の脅威に晒されます。
このような環境で精密機器である防犯カメラを長期間安定して運用するためには、高い防塵・防水性能が不可欠です。
【推奨IP等級】
結論から言うと、雨風に直接晒される場所に設置する屋外用防犯カメラには、IP66以上を強く推奨します 。
IP65でも「防噴流形」として一定の防水性能はありますが、IP66は「耐水形」とされ、台風のような「強力なジェット噴流水」にも耐えることができます 。日本の気候を考えると、この差は非常に大きいのです。
ここで、



「なぜ水没に耐えるIP67やIP68ではないのか?」
という疑問が浮かぶかもしれません。
これは、防水試験の性質に関係しています。壁面や軒下に設置される防犯カメラにとって、洪水で水没するリスクよりも、横殴りの暴風雨に叩きつけられるリスクの方がはるかに高いのです。
つまり、「水没(防浸)」への耐性(等級7, 8)よりも、「強力な水流(耐水)」への耐性(等級6)の方が、多くの設置環境においてより重要となります 。
さらに、屋外ではカメラへのいたずらや、飛来物による物理的な破壊のリスクも考慮すべきです。
そのための指標が「IK等級」という耐衝撃性能規格です。IK00(無保護)からIK10(最高等級)まであり、屋外用カメラを選ぶ際は、できればIK10を備えたモデルを選ぶと、より安心して運用できます 。



IK10等級にも対応していれば、なお安心ですが、“あったらいいな”程度の付加価値として考えておくと良いでしょう。
これらの点を踏まえ、設置場所ごとのおすすめIP等級をまとめました。
設置場所 | 想定される環境 | 推奨IP等級 | ポイント |
---|---|---|---|
軒下など直接雨が当たらない場所 | 砂埃、吹き込む程度の雨 | IP65 | 直接的な豪雨は避けられるため、噴流水への保護があれば十分 。 |
雨風に直接晒される壁面・ポール | 台風、ゲリラ豪雨、砂嵐 | IP66 | 台風レベルの暴風雨にも耐える「耐水形」が必須。防塵も最高の6が望ましい 。 |
浸水の可能性がある低い場所 | 冠水、洪水 | IP67 / IP68 | 万が一の水没に備え、一時的または継続的な水没に耐える性能が必要 。 |
よくある質問と注意点
最後に、IP等級に関してよく寄せられる質問や、知っておくべき重要な注意点をQ&A形式でまとめました。
- 「IPX5/IPX8」のように2つ表記があるのはなぜ?
-
これは、防水試験の種類がそれぞれ異なるためです。
先ほども少し触れましたが、防水等級は単純な上下関係にはなっていません。特に「噴流水に対する保護(等級5, 6)」と「水没に対する保護(等級7, 8)」は、全く別の試験です 。
- IPX8に合格した製品は、水没には強いですが、必ずしも強いシャワー(噴流水)に耐えられるとは限りません。
- 逆にIPX5に合格した製品は、シャワーには強いですが、水没させると浸水する可能性があります。
そのため、メーカーが「噴流水」と「水没」の両方の試験に合格したことを示すために、「IPX5/IPX8」のように両方の等級を併記することがあるのです 。これは、製品がより幅広い水のトラブルに対応できることを示す、信頼の証と考えることができます。
- 最強の「IP69K」とは?
-
IP等級を調べていると、まれに「IP69K」という規格を目にすることがあります 。これは、一般的な防水性能をはるかに超える、特殊で非常に高い保護等級です。
IP69Kは、もともとドイツの工業規格(DIN 40050 PART9)で定められ、現在はISO 20653(道路車両の規格)の一部となっています 。
この規格が想定しているのは、「高温・高圧のスチームジェット洗浄」です 。例えば、食品加工工場や製薬工場、あるいは大型車両など、高温・高圧の水で徹底的に洗浄・殺菌する必要がある産業用の機器や部品に使われます 。
約80℃のお湯を、至近距離から100気圧近い高圧で噴射するという、極めて過酷な試験をクリアした証です 。一般消費者が使うスマートフォンやイヤホンに適用されることはまずありませんが、IP等級の最高峰として覚えておくと面白いかもしれません。
防犯スペシャリスト「守」防犯カメラ等の防犯用品を選ぶうえではあまり関係ありません
- 「防水」と「耐水」って違うの?
-
日常会話では「防水」と「耐水」という言葉は混同されがちですが、厳密にはニュアンスが異なります。
一般的に、「耐水」は水しぶきや小雨など、ある程度の水に耐える性能を指し、「防水」は水没など、より高いレベルで水の侵入を防ぐ性能を指すことが多いです 。
しかし、これらの言葉には明確な基準がありません。あるメーカーが「耐水」と呼ぶ性能を、別のメーカーは「防水」と呼ぶかもしれません。
だからこそ、この曖昧な言葉の代わりに、客観的な性能を示すIP等級が重要なのです。
「耐水」や「防水」という宣伝文句だけに頼らず、具体的なIP等級の数字を確認することが、製品の性能を正しく理解する唯一の方法と言えるでしょう。
まとめ
今回は、IP等級について、基本的な知識から具体的な製品選びのポイント、そして専門家としての注意点まで、幅広く解説しました。
最後に、重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- IP等級は、防塵・防水性能を示す世界共通の「ものさし」。
- 1桁目は「防塵」、2桁目は「防水」のレベルを表す。
- 「X」は「ゼロ」ではなく「未試験・未規定」の意味。
- IP67とIP68の違いは、水没の深さと時間。IP68はメーカーの規定を確認することが必須。
IP等級は、あなたの暮らしの安全を守る設備を、水やホコリといった思わぬトラブルから守るための、信頼できる指標です。
この記事で得た知識を活かし、ご自身の使用環境や目的に合わせて最適な等級の製品を選ぶことで、より安全で快適な生活を送っていただければ幸いです。
ご家庭の安全を守る防犯カメラ選びも、全く同じです。正しい知識を持つことが、安心への第一歩に繋がります。
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